ナマズ属





鼻管の長さや分布など総合的な判断で同定する

ナマズ属は全長60cm以上になる大型魚で、 バケツの上からや地面に置いて撮影することが多く、どうしても細部や内部形態などの情報が不足します。 ここではそうした写真でも同定できるように試みました。 ナマズ、イワトコナマズ、ビワコオオナマズの日本産ナマズ属は、 外観上は決定的な特徴が少なく、傾向的な特徴を確認して、総合的な判断で同定します。 私は琵琶湖水系は119箇所(北湖106+南湖8+内湖3+瀬田川2)、昼夜を問わず全月(1〜12月)素潜りし、ナマズ属を数多く見てきました。 そこで得た経験から、形態以外の傾向から、同定できる可能性も記しました。 近畿・中部地方の谷川(上中流域)に生息するタニガワナマズ(仮称)は、未知の部分が多く、情報を省きました。

日本産ナマズ属4種
ナマズ科 Siluridae
 ナマズ属 Silurus
     ナマズ Silurus asotus (Linnaeus, 1758)
     
     
     
     
     
     
     
     
     タニガワナマズ(仮称) Silurus sp.
     
     
     
     
     
     
     
     
     イワトコナマズ Silurus lithophilus (Tomoda, 1961)
     
     
     
     
     
     
     
     
     ビワコオオナマズ Silurus biwaensis (Tomoda, 1961)
       
       
       
       
       
       
       
       
科名 属名 種小名 命名者名 命名年
全長(cm)0-6566-7576-119120-153
ナマズ
イワトコナマズ
ビワコオオナマズ
水温(℃)0-56-2425-2728-31
ナマズ
イワトコナマズ
ビワコオオナマズ
湖岸域出現月123456789101112
ナマズ
イワトコナマズ
ビワコオオナマズ
全長70cm以上(琵琶湖水系)であればビワコオオナマズと同定しても正判別率は高いと思います。これまで聞き込みで得た最大は全長153cm(体重23kg)です。 極希にイワトコナマズ×ビワコオオナマズという交雑が確認され、その疑いがある場合は、更なる精査が必要です。 水温25〜27℃からイワトコナマズは急に減り、水温の低い深場へ移動します。 夏場の琵琶湖は31℃程度になりますが、28℃以上で捕れたナマズ属は、ナマズかビワコオオナマズの疑いが強いです。 琵琶湖の湖岸域でナマズは年中見られますが、イワトコナマズとビワコオオナマズは、4月下旬〜7月中旬頃に集中し、それ以外の時期は希です。 湖岸域で2月にビワコオオナマズ幼魚を目撃したこともありますが、イワトコナマズは冬場に見たことはありません。 岸からナマズ属を目撃すると、ナマズは底からやや上をゆっくり泳ぎ、水平方向にいる魚を探し、 ビワコオオナマズは底に鎮座し、上方を通り過ぎる魚を待ち、 イワトコナマズは頭を下へ向け、岩に頭が触りながら泳ぎ、その隙間にいる生物を探す姿をよく見ます。 こうした行動観察だけで同定できることもあります。

ナマズ属の分布
ナマズ イワトコナマズ ビワコオオナマズ
全国的に見られるが、自然分布は滋賀県〜九州北部と推定され、それら以外は外来魚の疑い。 琵琶湖・瀬田川、余呉湖。内湖や流入河川には侵入しない。 琵琶湖・瀬田川・宇治川・淀川。極希に内湖などでも確認されているようだが、放流の疑いがある。
ナマズは移入で全国的に広がっています。 ビワコオオナマズは単発的に放流され、池などで見つかることがあります。 この中には飼育魚を持て余した個体も多いと思われ、こうした外来魚の放流は止めるべきです。 イワトコナマズは自然分布域以外では知られておらず、 ビワコオオナマズと違って高水温に弱く、放流されても夏場に死んでいると想像します。 また、琵琶湖南湖は水深が浅く、底付近も水温が高く、夏場は生息できないと思われます。 琵琶湖に流れる川や水路で見られるナマズ属は、ナマズ以外は見たことがありません。 それが琵琶湖まで距離20mの河口域であっても、ビワコオオナマズとイワトコナマズは見られません。 川の流れがなくなる、河口から出た琵琶湖側には見られます。 琵琶湖へ流れる川や水路で捕った個体は、ナマズと同定してほぼ間違いありません。

鼻管の長さ
頭の長さ形
まずは鼻管の長さを確認してください。ナマズの中にはハの字になる個体もいます。

前鼻孔にある鼻管は、イワトコナマズだけが長くて目立ちます。 そうではないナマズとビワコオオナマズの疑いがある場合は、頭の長さと形を確認します。ナマズは頭長が短く、丸い印象を受けますが、 ビワコオオナマズは頭長が長く、潰れた様に見えます。また、胸鰭条数がナマズ(1棘12〜13軟条)よりも、 ビワコオオナマズ(1棘13〜15軟条)の方が多く、胸鰭長もやや長く、確りしているように見えます。

図鑑のほとんどに記されている識別点は微妙
 
イワトコナマズの眼は腹側から見ることができる? ビワコオオナマズの尾鰭上葉は下葉よりも長い? そうとは限らない!

図鑑等で見られる「イワトコナマズの眼は腹側から見ることができる」という識別点。 イワトコナマズを何度も引っ繰り返し、腹側から眼を確認したところ、1/3程度は見られない印象です。 これは引っ繰り返した際に、重力によって眼が背面へ移動するためで、水中に入れると、確認できることが多いです。 そのため腹側から眼が見えなくとも、頭が潰れた様で、眼が側方に突出していれば、イワトコナマズと同定して良いと思います。 但し、ビワコオオナマズ幼魚は、腹側から眼が見えても不思議ではないほど、頭が潰れた様で、眼が側方に突出するため、注意が必要です。 「尾鰭上葉は下葉よりもビワコオオナマズは長く、ナマズはほぼ同じ」という識別点も、図鑑等によく記されています。 写真右を見ると微妙な違いで、むしろナマズの上葉の方が長いようにも見えます。 こうした識別点は決定的な特徴ではなく、傾向的な特徴として捉え、同定の参考とする方が良いです。

模様では同定できない
小さくて鼻管などがよくわからない写真。よく見ると体型が異なります。模様よりは体型の方が当てになります。

図鑑等でイワトコナマズは黄褐色の斑紋が散りばめられ、ビワコオオナマズは黒褐色で斑紋は無い様な感じで、記されていることが多いです。 そのためか黄褐色の斑紋があるナマズが、イワトコナマズと誤同定されることが散見されます。 名著の「日本の淡水魚 山渓カラー名鑑」のイワトコナマズ(全長38cm)も同様で、黄褐色の斑紋があるナマズです。 写真3個体は黄褐色の斑紋が中央にはなく、左と右の個体には認められます。 しかし、中央はイワトコナマズ、左はナマズ、右はビワコオオナマズです。 斑紋や体色も傾向的な特徴であって、そこだけを判断の拠り所にすると誤同定します。


参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013.2.26
□ 新装版山渓フィールドブックス(2) 淡水魚 森文俊・内山りゅう 山と渓谷社 2006.8.23
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 改定版 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編 監修 山と渓谷社 2001.8.25
□ 魚類学雑誌 8巻5/6号 日本魚類学会 1962.6.30
□ 研究紀要 第8号 滋賀県立琵琶湖文化館 1990
□ 外来生物 つれてこられた生き物たち 第11回企画展示 滋賀県立琵琶湖博物館 2003.7.19