スゴモロコ or コウライモロコ





同物異名と考えられるため同定は不可能

※当ページは改定準備中です。気長にお待ち下さい。

日本産スゴモロコ属魚類の同定に入る前に、スゴモロコとコウライモロコは同物異名の疑いがあるということから記します。 スゴモロコは琵琶湖固有亜種で、コウライモロコはそれ以外の西日本や朝鮮半島に分布するとされますが、 琵琶湖からの放流によりスゴモロコは全国的に広がっています。 両者の形態形質は酷似し、更に中間型も存在するとされるため、同定は難解を極めます。 例えばスゴモロコ(縦列鱗数39〜41,脊椎骨数37〜39,鰓耙数5〜8)、 コウライモロコ(縦列鱗数37〜40,脊椎骨数36〜38,鰓耙数6〜11)この3つの特徴では分けられません。

上顎長と口髭
スゴモロコ(琵琶湖産)口髭は短い。コウライモロコ(愛知県産)口髭は長い。

ここでは上顎長と口髭の関係を利用して同定しました。口髭は希に欠損している場合があるので注意が必要です。 上顎長とは上顎前端から上顎後下端までの距離です。 スゴモロコの口髭は上顎長の2/3程度で、コウライモロコの口髭は上顎長とほぼ同じかそれより長いとされています。 上の比較写真は典型的な個体を選んで撮影したものです。

太短いスゴモロコ
体型は太短いが口髭は上顎長の2/3程度の長さ。(琵琶湖産)

細身なコウライモロコ
体型はスマートだが口髭は上顎長とほぼ同じ長さ。(濃尾平野産)

スゴモロコは細身でコウライモロコは太短い、この特徴が同定によく利用されています。 数値的にも体長は体高の19%以下がスゴモロコ、20%以上がコウライモロコとされています。 しかし体高は個体が太ると高く痩せると低くなります。 また雌が卵を持つと極端に高くなることもあります。 体高比は傾向として使える特徴ですが決め手には欠けます。 それよりは個体の状態によって変動し難い、上顎長と口髭の関係の方が良いですが、 両者の違いの境界線は口髭が上顎長の2/3程度からほぼ同じという僅かな差です。

スゴモロコ類
AとBはスゴモロコ?コウライモロコ?

体型はAがスゴモロコで、Bがコウライモロコのようですが、口髭は両者ともコウライモロコに該当します。 体型は前述したように決め手に欠けます。それでは口髭から考えて両者ともコウライモロコでしょうか。 Aの産地は伊勢平野(三重県)です。 伊勢平野はスゴモロコとコウライモロコどちらも移入と考えられます。 それでは琵琶湖産アユの放流に混入して来たスゴモロコでしょうか。 しかし、口髭は明らかに上顎長より長く、スゴモロコとは異なります。 次にBの産地は琵琶湖と内湖の連絡水路(滋賀県)で、ようするに琵琶湖産です。 体型と口髭の両方から考えてコウライモロコですが、分布域はスゴモロコです。 琵琶湖でコウライモロコを確認したということでしょうか。 このように両者は酷似どころか形態形質で分けることは不可能に近く、 交雑のことも考えると極めて難解です。 形態形質で同定できない個体が少なくないことから、両者を亜種関係として分類することは懐疑的です。



スゴモロコ属

従来現在学名自然分布移入
イトモロコイトモロコSqualidus gracilis gracilis濃尾平野以西関東他
スゴモロコスゴモロコSqualidus chankaensis biwae濃尾平野から広島県
国外では朝鮮半島
全国的
コウライモロコ
デメモロコ
デメモロコ濃尾型Squalidus japonicus subsp.濃尾平野と伊勢平野未記録
デメモロコ琵琶湖型Squalidus japonicus japonicus琵琶湖淀川水系関東他

2003年8月5日に「デメモロコ濃尾型」において、 デメモロコの琵琶湖産と濃尾平野産は形態形質から識別可能と証明し、 2006年12月13日に当ページにおいて、スゴモロコとコウライモロコは形態形質から識別不可能で、 亜種関係としての分類は懐疑的という内容を記しました。 その後2007年3月10日に「スゴモロコ類およびデメモロコの遺伝的集団構造と形態変異,第44回魚類自然史研究会,柿岡諒ほか」において、 「スゴモロコとコウライモロコは,遺伝的にも形態的にも明確に区別をすることができなかった」また 「伊勢湾周辺産デメモロコはミトコンドリアDNAにおいて多系統的であり,琵琶湖産デメモロコと特に近縁ではなかった」という発表がありました。 当サイトではこれらの証明により、デメモロコは濃尾型と琵琶湖型の2型(亜種の可能性が高い)とし、 コウライモロコ Squalidus chankaensis tsuchigae (Jordan & Hubbs, 1925) は、 スゴモロコ Squalidus chankaensis biwae (Jordan & Snyder, 1900) の同物異名として扱うことにしました。 この4種類の日本産スゴモロコ属魚類の同定を、消去法的に順を追って下に記しました。

側線上方横列鱗数
背鰭起部(背鰭の前)から後下方へ側線鱗(側線のある鱗)の手前までの鱗が4枚ならばイトモロコ。

まずイトモロコとそれ以外に分けます。 見慣れると側線上方横列鱗数を数えなくても誤同定しなくなりますが、 最初はこれがイトモロコということを知っておくためにも鱗を数えてみましょう。 側線上方横列鱗数が4枚イトモロコ、5〜6枚イトモロコ以外です。

頭長比
真横から撮影した写真は画像処理ソフトでも可能です。 頭長比からスゴモロコ(琵琶湖産)です。 体側に暗色斑がないため、デメモロコとよく間違われるタイプの個体です。

次にスゴモロコとデメモロコ(濃尾型・琵琶湖型)に分けます。 頭長(上顎前端から鰓膜後端までの距離。ようするに頭の横幅)と 体長(上顎前端から下尾骨の後端までの距離。 下尾骨の後端とは鱗が途切れて尾鰭になる位置ではなく、 その手前の尾鰭を左右に折り曲げたときにできるしわの位置)をノギスで測って比較します。 頭長はスゴモロコが短く、デメモロコ(濃尾型・琵琶湖型)が長くなります。 頭長比は「魚類学雑誌45(2):115-119」に両者とも琵琶湖産で、 スゴモロコ22.70〜25.82%、デメモロコ25.97〜28.79%とされています。 私の計測ではデメモロコ濃尾型26.14〜28.71%、 デメモロコ琵琶湖型26.26〜30.50%で両型に有意差はありませんでした。 濃尾平野の一部地域で25.76%と25.12%も確認していますが、 この地域は精査が必要なためデータに加えないでおきます。

傾向的な特徴からの比較
これらだけを拠り所にすると例外を誤同定します。 詳細は「デメモロコ濃尾型」

最後にデメモロコ濃尾型とデメモロコ琵琶湖型に分けます。複数の傾向的な特徴からある程度は同定できますが、 下顎の形状と「肛門臀鰭間÷口髭間=%」デメモロコ濃尾型51〜76%、デメモロコ琵琶湖型81〜114%を調べると重み付けになります。

スゴモロコ属魚類の色や斑紋は個体や状態で変異が大きく、 決定的な特徴を確認しないと誤同定を誘発します。 スゴモロコとデメモロコ琵琶湖型は中間的な形態を持つ、天然雑種も確認されているため難解を極めます。 これらを反映するかのように、図鑑ですら何冊も誤同定された写真が掲載されています。 スゴモロコ属はニゴイやコウライニゴイの幼魚、タモロコやホンモロコ、ヒガイ(ビワヒガイ型)やヒガイ伊勢湾周辺種、ゼゼラ河川集団などと間違われたり、 ホンモロコ、スゴモロコ、デメモロコの写真3枚ともスゴモロコという文献まであります。

採集調査でも分布で判断したと思われる報告が散見されますが、 その分布も従来よりも移入で広がっており、どこで何が捕れてもおかしくない状況です。 琵琶湖産アユの放流はスゴモロコと同様に、デメモロコ琵琶湖型も混入すると考えられ、 関東地方のある河川では定着している可能性があります。 このような状況下では、スゴモロコの群にデメモロコ琵琶湖型が混在しても、見過されていることでしょう。 私は同所的にイトモロコとスゴモロコ、スゴモロコとデメモロコ濃尾型、 スゴモロコとデメモロコ琵琶湖型を確認しています。 同定が面倒な場合は「写真掲示板」へお気軽にご投稿下さい。 お役に立てる場合もあります。


参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第二版 中坊徹次編 東海大学出版会 2000.12.20
□ 日本産魚類検索 全種の同定 第三版 中坊徹次編 東海大学出版会 2013.2.26
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 改定版 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編 監修 山と渓谷社 2001.8.25
デメモロコ濃尾型
□ 第44回魚類自然史研究会要旨集 2007.3.10
□ 魚類学雑誌 45巻2号:115-119 日本魚類学会 1998.11.26