絶滅危惧種





■はじめに
淡水魚は多くの種類で絶滅が危惧されています。それらの種類を環境省が 「レッドリスト」 として公表しています。メダカ(キタノメダカ・ミナミメダカ)が絶滅危惧II類に指定されたことにより、 淡水魚に関心の薄かった方にも大きな影響を果たしたと思われます。 ここでは絶滅危惧IA類・IB類・II類を「絶滅危惧種」として記しています。 この絶滅危惧種という厳かな肩書きがついたことによって、 指定された種類の保護などに大きな役割を担った場合もあれば、 逆に過大にとらえて指定のない種類には全く目が向かないことも散見されます。



■飼育魚にする際の考え方
淡水魚の飼育は採集した魚を持ち帰るわけですから、当然その水域から持ち帰った分は減ってしまいます。 淡水魚は哺乳類などと異なり絶対数が多くて回復力も早いため、持ち帰る際にそれほど気を使う必要はありません。 全く配慮しなくてもよいというわけではなく、水槽で飼育するために少量を持ち帰ったとしても、 ダメージを低く抑える必要があると思います。一般的な飼育規模を想定した考え方を下表にまとめましたので、 ご参考までに当てはめて利用してください。1〜3は採集前に予め知っておき、 4〜10でわからない場合はNOへ進みます。
1.採集可能水域で淡水魚を自宅で飼育するため捕獲した。
スタート
  
   
2.文化財保護法、種の保存法、外来生物法、漁業調整規則などによる規制のある魚。YES→法令に従う。
 ↓NO  
3.水槽設備などの面で捕獲した魚を飼育できない。YES→捕獲した場所へ逃がす。
 ↓NO  
4.移入魚、重度の傷病個体、偶発的交雑魚、土着ではない汽水魚、周縁魚など本来は海産魚である。YES→全て持ち帰って問題ない場合が多い。
 ↓NO  
5.採集水域に持ち帰る予定の魚と同じ種類、大きさ、性別の個体が数多く確認できる。YES→全て持ち帰って問題ない場合が多い。
 ↓NO  
6.採集水域は湖や大河など広大な環境である。YES→全て持ち帰って問題ない場合が多い。
 ↓NO  
9.ナマズのように単独行動で本来どの水域に置いても少ない魚である。YES→少数ならば持ち帰って問題ない場合が多い。
 ↓NO  
7.採集水域は継続的に繁殖できる状況ではなく、主生息水域から一時的に侵入してきたと考えられる。YES→少数ならば持ち帰って問題ない場合が多い。
 ↓NO  
8.採集水域は湧水地など局所的な環境である。YES→捕獲した場所へ逃がす。
 ↓NO  
10.採集水域で1年以内にその種類を多く確認した。または移動可能な近接水域に現在も多く確認できる。YES→少数ならば持ち帰って問題ない場合が多い。
 ↓NO  
 捕獲した場所へ逃がす。  

ここで注目して頂きたいのは絶滅危惧種には全くこだわっていないことです。 大事なのは人間がつけた肩書きのある種類を基準にするのではなく、 採集者がそれぞれの採集地に応じて考察し判断することです。 それには明確な答えが常に存在しているものではないため、 判断する際は十分に注意しないといけませんし、 知識や経験が必要になってきます。



■希少種と希少魚
私は希少種と希少魚という同じ意味にでも取れる言葉をあえて使い分けています。 希少種とは絶滅危惧種に代表される希少な種類であるという肩書きが公から指定されているものを示し、 希少魚とは個々の水域で希少な魚を示しています。 希少種は絶対的なものですが、希少魚は水域によって異なります。 フナ類が希少魚でミナミメダカが普通魚な状況になることもよくあります。 私がこのページで最も主張したいのは「希少種よりも希少魚に重点を置くべき」ということです。 A池は他の水域と普段は連絡を持たない小規模な池です。ここを例にして説明させて頂きます。
A池
採集日1998年4月29日採集方法籠網2個1回
採集時刻11:20〜11:50水生植物ヨシ、オオカナダモ
天気晴れ採集者西村
24時間前の天気晴れ(降水なし)備考初採集地
No.淡水魚類名個体数発育備考
1タイリクバラタナゴ++++CD 
2フナ類B 
3モツゴ++CD 
4カワバタモロコ+++BCD上から見ても多くの個体が確認できた。
個体数 +1〜9 ++10〜49 +++50〜99 ++++100〜199(尾)   発育 A仔稚魚 B未成魚 C成魚 D二次性徴

何度か採集を行いましたがいつも似た魚類相でした。 採集した魚を飼育や食用として持ち帰るならばどうすることが望ましいでしょうか。 まず国外移入種(外来種)のタイリクバラタナゴは全て持ち帰っても構わないと思います。 日本で多くの問題を引き起こしている魚で、乱獲して駆除する必要さえあると言えます。 さて在来種の中で最も多く捕れたカワバタモロコですが絶滅危惧種です。 絶滅危惧種を持ち帰るなんてもってのほかと思いがちですがそうではありません。 絶滅危惧種という指定は国や地方公共団体が全体的な視野で判断されたもので、 1つ1つの水域に対して絶滅が危惧されるものとは異なります。 そのため逃がしてあげるならば個々の水域においてその判断を下さないといけません。 ようするにA池では籠網2個1回という小規模な採集によって、 50〜99尾も捕れるほどいるカワバタモロコは、 絶滅が危惧されるものとは考え難く希少魚でもないのです。 逆に普通種である何ら肩書のないフナ類やモツゴの方が捕獲量的には少ないため、 A池ではフナ類やモツゴの方が希少魚の可能性があるのです。



■肩書きの増加
ミヤコタナゴは国指定の天然記念物(文化財保護法)、国内希少野生動植物種(種の保存法)、 絶滅危惧種(水産庁)、絶滅危惧IA類(環境省)という肩書きを持っています。 ウシモツゴは絶滅危惧種(水産庁)、絶滅危惧IB類(環境省)の他に、 岐阜県希少野生動植物種(岐阜県)、市指定の天然記念物(愛知県西尾市)など 地方公共団体からも指定されています。これらは把握できないほど多くの魚に肩書きが与えられています。 高知県ではモツゴが絶滅危惧U類に指定されています。 これを見てもわかるように肩書きがない種類の方が少ないくらいなのです。 また政治的な事情により指定された種類がいることを知っている私は一歩引いて捉えています。 こうした肩書きはわかりやすい指標にはなりますが、 あまり過大に捉えず惑わされないことが大切だと思います。 そうしないと個々の水域で本当に貴重で危惧される生物を見逃すことになります。

■ヒナモロコは普通種
私は淡水魚と関わる方とお話をすると、 「あの魚は絶滅危惧種だから」という言葉を耳にします。 果たしてそこまで絶滅危惧種を特別視する必要があるのでしょうか。 まず絶滅危惧種指定種に関して言えることは、 日本という大きな単位で指定されたものだということです。 絶滅危惧IA類のヒナモロコは日本では絶滅寸前と言われいますが、 文献によるとアジア大陸東部に広く分布するとありますし、 地球という規模で言えば、絶滅危惧種どころか普通種になるのです。

■イチモンジタナゴをドンコの餌にする
私は絶滅危惧IA類のイチモンジタナゴを何の肩書もないドンコに 餌として以前から与えていました。他の魚を与えても食いが悪く、 濃尾平野で捕ったイチモンジタナゴやタイリクバラタナゴを特に主食として与えていました。 人によっては、そんなかわいそうなことをするのは良くないと言われたり、 絶滅危惧種で更に濃尾平野では少ないイチモンジタナゴを餌にするなんてと悪人扱いされました。 別に悪人扱いされてもよいのですが、論点は別にあって、 そうした発想をされる方は種類に重点を置き過ぎ、 そのイチモンジタナゴがどういった過程(資源量豊富な場所で捕れたなど)で、 餌になったものかという一番肝心な点が抜けているのです。

■種類に重点が置かれ過ぎている
以前にウシモツゴ関連のことで各地に頻繁に出かけていた時期がありました。 その頃はレッドデータブックは1991年に発表されたものが知れわたっていました。 その当時にウシモツゴを繁殖して放流している団体の代表のお2方とお話する機会があり、 頂いた資料にはウシモツゴ(環境庁指定絶滅危惧種)とわかりやすく書いてあり、 それに関しては地域の方に関心を持っていただく1つの手段として有効だと思いました。 しかし、私が自宅でスイゲンゼニタナゴ(国内希少野生動植物種指定以前)を飼育しているという話しになった途端に、 代表の方の1人が激怒されました。 そんな絶滅危惧種を個人が飼育するのは良くないと主張されるのです。 その方はウシモツゴもカワバタモロコも飼育されていましたし、 そこまで言われるのはおかしいと思いました。 私は色々とそのスイゲンゼニタナゴを飼育するに至る過程を説明しました。 でも、その方は最後まで絶滅危惧種に指定された種類という面のみで話を展開されていました。 イチモンジタナゴがその方の住んでおられる地域にはいるのですが、 そこは移植説が極めて高い水域にも関わらず、それを承知していながら、 各地で減っている種類ということで、保護して行く方針もお話されていました。 ここを後にして私が強く感じたことは、 またもや絶滅危惧種や減っている「種類」ということに重点を置き過ぎているという印象でした。 種類で判断するのではなく個々の水域で判断するべきなのです。


※助言くださったふなむしさんに心から感謝いたします。

参考・引用文献 ※不備がある場合は改めますのでお手数ですがご連絡ください。
生物多様性センター
法令データ提供システム
高知県動物版レッドリスト
□ 山渓カラー名鑑 日本の淡水魚 2版 川那部浩哉・水野信彦編 監修 山と渓谷社 1995.9.1